前回、博士号についてかなり私見を交えてお話しました。
今回は、博士号について、学生と社会人の違いの観点からご紹介したいと思います。
博士後期課程に進学する人
前回ご説明したとおり、博士号は大学院の博士後期課程に進学し、修了すると授与される学位のことです。
(大学院に進学せず直接博士号を取得する論文博士制度もありますが、ここでは触れません。)
「大学院」というと、学生が大学卒業後、就職を選ばす、そのまま進学するイメージを持つ人も多いかと思います。
実はそんなことは無いんです。
図1の平成30年度の博士後期課程入学者の割合を見てください。
(a). 社会人の割合 (b). 年齢構成
図1. 平成30年度博士後期課程入学者の割合 (文部科学省「学校基本調査-平成30年度結果の概要-」よりデータ抜粋)
なんと、社会人から博士後期課程に進学する方が43%います。(図1-(a))
かくいう私”しーるど”も、働きながら社会人として博士後期課程に進学しました。
社会人から大学院へ進学する目的は、人それぞれだと思います。
「自分の専門を更に深めたい」、「学び直しがしたい」、「仕事と異なる分野を掘ってみたい」
あるいは、私のように「博士号のステータスが欲しい」(不純?)などなど。
また、
「いい年した社会人が、若い学生達に交じってうまくやっていけるだろうか、、」
と躊躇してしまう方もいらっしゃるかもしれません。
安心してください。
年齢構成別(図1-(b))に見ても、30代以上の入学者の割合は多いです。
つまり、
いい年した?社会人が大学院に入学することは、客観的に当たり前
のことなのです。
私も30代後半で大学院に進学しましたが、他にも40代、50代のビジネスマンの方もおられ、若い学生達と議論しながら研究を進めていました。
私の指導教員は、むしろ経験を積んだ社会人の方が、学習意欲、スケジュール管理やロジカル思考などが優れており、有り難いと言っていました。
70代で博士号を取得された方の例もあります。
77歳で経営学博士号 経営プロデューサー「80代は盛年期」|日刊ゲンダイDIGITAL (nikkan-gendai.com)
博士号:73歳会社経営者、一念発起で取得 鳥取大大学院 – 毎日新聞 (mainichi.jp)
私の個人的な考えが混ざりますが、
学びや研究に年齢は関係ない
と思っています。
年齢とともにある程度の体力的な衰えは仕方ないのかもしれません。
(私も20代の頃と比べて徹夜できなくなってきました。目がシバシバします。)
でも、
自分にとって興味があることで、かつ智慧を使ってできることであるならば、何歳からでも挑戦し達成することは可能だ
と思っています。
学生か社会人か?
では、学生として博士課程に進学するか、社会人になってから博士課程に進学するか、どちらが良いのでしょうか?
私の偏った?所感ですが、表1に学生と社会人の違いをまとめてみました。
博士号取得難度 | 経済基盤 | 時間 | 就職リスク | |
学生 | ○(低) | △ | ○ | △(有) |
社会人 | △(高) | ○ | △ | ○(無) |
ケースバイケースだと思いますので、完全否定(×)はせず、曖昧な表現に抑えています。。
各項目をみていきましょう。
-博士号取得難度
身も蓋もないお話ですが、博士号を取るのは難しいです。
なぜならば、学士・修士と違い、博士号取得には外部実績が必要になります。
具体的には、研究論文を論文誌に投稿し、外部の先生方の査読(掲載価値があるか学術的に内容を審査されること)を通過し、掲載されなければなりません。
「査読付き論文」と呼んでいますが、本人が第一著者の査読付き論文を何本か出さないと、大学院の博士号審査会に進むことすらできません。
博士号審査会に進むための必要な査読付き論文数は大学院によって異なりますが、通常は第一著者で1~3本、というところが多いと思います。
これがまた大変で、ある程度の練り込みとコツが要ります。(また別の機会にお話します。)
社会人として大学院に入学しても、正直に申し上げて、半数以上の方が査読付き論文が出せず、博士号を取得できずに終了してゆきます。
時折、人の略歴に、「博士後期課程単位取得退学」という表現が使われていることがあります。これの多くは、大学院の博士課程で必要な単位を取得したものの、博士号を得る条件を満たさずにそのまま退学したことをさしています。
学会発表は比較的容易なんです。国内学会も、国際会議も。発表のためのハードルは高くありません。
しかし、査読付き論文掲載が難しい。
学生の場合、比較的、指導教員がフォローしてくれます。(厳しいところもありますが)
社会人の場合、充分に指導の機会が無く、(時間的に指導教員と打合せする時間がない、という場合もあります。)指導教員から放置される、ということもしばしば聞きます。
要するに、社会人の場合は「自立」を期待されているのです。社会人なんだから、教員が逐一指導しなくても、自分でできるだろう、という期待を持たれている、ということがあると思います。 その意味で、社会人を△にしています。
-経済基盤
博士後期課程の学費は、国立と私立で異なります。
大学院によって異なるのであくまで参考値ですが、仮に3年間とした場合、かかる費用は表2のようになります。
表2. 博士後期課程にかかる学費(概算)
入学金 | 授業料(+施設利用料) @年間 | 合計 (3年間) | |
国立大学 | 28万円 | 55万円 | 193万円 |
私立大学 | 20万円 | 70万円 | 230万円 |
<参考>私立大学等の平成29年度入学者に係る学生納付金等調査結果について:文部科学省 (mext.go.jp)
やはり私立の方が高いですね。国立でも結構な額だと思います。
学費を払うための経済基盤という意味では、圧倒的に社会人が有利です。
会社からお給料をもらいながら通うので、その意味では安定でしょう。
(高い出費であることにかわりはありませんが。)
会社によっては学費を補助してくれる場合もありますが、レアケースと考えるべきでしょう。
学生の場合も奨学金制度や、ガクシンと呼ばれ国から研究奨励費として経済的な支援を受けられる場合があります。が、社会人の安定性に比べれば経済基盤は不安定と考えるべきでしょうね。
-時間
研究に割ける時間はやはり学生が圧倒的に多いです。
社会人は仕事をしながらなので、博士課程の研究に割けるのは、平日の夜とか土日とか。
あるいは日々の生活の中で隙間時間を見つけてコツコツ進めるか、です。
まれに会社での仕事と博士課程の研究が連動している場合(産学連携など)は、普段の仕事も博士号取得につながる研究に費やす時間になるでしょう。ただ、これは希なケースです。
大部分の社会人博士課程の人は、仕事と切り離して、大学院の研究をしています。
個人的な意見ですが、社会人にとって一番時間の捻出が難しいのは、
「学会参加」と「論文執筆」だと思います。
海外で開催される学会で発表する場合は、当然本人が海外に遠征しなければなりません。
行き帰りの交通時間(飛行機)や、他の方の講演を聴講したり懇親会に参加したりします。(必須ではないですが。)となると、会社の方を少なくとも2,3日以上はまとめて休まないといけません。
また言うまでもないかもしれませんが、論文執筆も時間がかかります。なかなか仕事のスキマ時間に進めようと思っても、クリエイティブな頭の切り替えは難しく、どこかでまとまった時間が欲しくなります。スキマ時間は他の研究論文を読んだり、データ整理などルーチンに充てた方が良いかもしれません。
社会人は学生と比べて計画的に研究を進める必要があるでしょう。
-就職リスク
以前のお話で「博士が100人いる村」という童話?をご紹介しました。
博士課程修了後の悲惨な行く末を描いた内容です。
(かなり極論なのであくまで参考として聞き流して良いと思います。)
上記が大げさだとしても、
学生が博士後期課程に進学する場合、短期修了という特殊な手を使わない限り、少なくとも3年間は就職せずに大学院に在籍したままとなります。
20代の3年という期間は、社会経験の観点からすると、考えようによっては貴重です。
修士卒で就職した人とは3年、学士卒で就職した人とは5年も社会経験に差がでます。
日本企業では、上記をネガティブに捉え、博士取得者の新卒採用に消極的なケースも多いと聞きます。新卒の博士課程修了者を修士と同じ待遇に設定したり、あるいは新卒で無く中途枠として扱ったりなど。
要は、悲しいけれど、日本企業の多くは、博士課程の3年分を戦力として見ていないのです。
それよりもその3年分企業で仕事していた方がよほど戦力になる、と考えています。
もちろん、国立の研究所員や大学教員など、博士号取得がマストとなっている職業ではその限りではありません。ただそのような職業は博士号を取得したとしても非常に狭き門です。
話はそれますが、博士号が真に威力を発揮するのは、日本国内では無く、海外とやり取りをするときだと考えています。(これは別の機会にお話しします。)
社会人は就職のリスクはありません。というか、既に就職しています。
経済基盤は安定しているし、仮に博士号をとれなかったとしても職を失うリスクはありません。時間管理は大変ですが、社会人はリスクは少ないと考えるべきでしょう。
以上、博士号取得について、学生と社会人の違いからつらつらと書いてきました。
学生としての博士進学、社会人としての博士進学、それぞれメリット・デメリットがあると思います。
が、わたし個人の意見としては、
社会人博士
をオススメします。
何故か。それは次回に詳しくご説明します。
よろしくお願いいたします!
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